両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

令和元年12月20日、日本経済新聞

「共同親権」の導入 是非は?

法務省は11月中旬、離婚した親と子の関係について検討する研究会を設置した。未成年の子を育てる親の権利や義務である「親権」がテーマだ。いまの民法は父と母が離婚すると、どちらか一方の親が子の親権を持つ「単独親権」を規定している。米欧諸国のように離婚後も父母の両方が子の親権を持つ「共同親権」が必要かどうかを議論する。
共同親権を扱うのは、国内外から現行制度の見直しを求める声が出ているからだ。
「子供は両親から愛される権利も自由も奪われてしまいます」。今年11月、離婚などで親権を持てず子に会えなくなったと主張する男女12人が集団訴訟を起こした。「共同親権を認めない現行法は養育権の侵害にあたり、違憲だ」と国に損害賠償を求めた。
2月には国連の「子どもの権利委員会」が離婚後の共同養育を認める法改正を日本に勧告した。国際結婚が増え、日本人女性が離婚後に海外から無断で子を連れて帰る事例が起き、共同親権の米欧諸国が問題視してきた。日本は米国などに迫られ、国境を越える子の扱いを定めたハーグ条約に加盟し、2014年に同条約は発効した。19年5月には改正ハーグ条約実施法も整備したが米欧には「問題は単独親権だ」との見方も残る。
日本の民法では、親権は父母が共同で行使するのが原則だ。だが離婚した場合は父母の一方しか親権者になれないとも定めている。同居して世話や養育をする身上監護のほか、教育や財産管理が親権の主な内容になる。
民法766条は「子の利益を優先して監護・面会交流の方法を協議で定める」と記している。親権を持たない親が子と会う「面会交流」に関しては、その頻度などの具体的な規定が法律には記されていない。父母の話し合いで決めることが前提になる。

■面会交流の調停増える
衝突が起きるのはこの「協議で定める」ところだ。父母の協議で決着しなければ家庭裁判所(家裁)に調停を申し立てる。家裁が家庭に関する事件を調停する「家事調停」の統計をみると、06年度から面会交流に関する調停の申立件数が急増している。06年度の約7千件から18年は3倍近い約2万件になった。20歳未満の子を持つ夫婦の離婚件数は同時期に減少傾向だったにもかかわらず増えていた。

離婚後に母親が親権を持つ事例は85%に上る。離婚事件を多く扱う弁護士は「日本の司法は『母親に監護させることが子の利益になる』と判断することが多い」と話す。親権を得られなかった父親が母親から子との面会を制限される例もある。
近年は共働き世帯が増え、父親の育児参画が進んでいる。この弁護士は「昔より父親が『子育てに参画したい』と思うようになってきた。母親を親権者とする司法判断に納得できないのだろう」と分析する。面会交流の協議がなかなか決着しないことへの不満が、いまの民法の単独親権の制度への不信につながっていると指摘する声もある。

■父母対立で子に不利益も
とはいっても共同親権を導入すれば様々な問題が解決する、というわけでもない。政府は12月17日、共同親権をもし導入した場合について答弁書を閣議決定した。
「父母が離婚後も子の養育に積極的に関わるようになることが期待される一方、子の養育について適時に適切な合意を形成することができないときは子の利益を害するおそれがある」。共同親権への懸念に答弁書は言及している。
法務省幹部は「民法を改正して共同親権に変えても、父母の合意がなければ面会交流は増えない」と話す。単独親権か共同親権かにかかわらず、面会交流の実施や頻度などは最終的には父母が協議して決めるからだ。「子と離れて暮らす親が『子に会う』という目的は、現行の単独親権の下での協議の枠組みで対応できる」とも強調する。
家庭内暴力や虐待で離婚した父母が共同親権になったとき、子の養育に関する話し合いをどこまでできるのかという指摘もある。子と同居する親が海外に移住したり、子の財産の扱いや進学などを決めたりする際にはその都度、もう片方の親の合意が必要になる。父母の関係が悪ければ、片方の親が幾度も拒否権を行使して様々な決定が滞る可能性も出てくる。

■各国研究から開始
法務省は外務省を通じて海外の親権の実態を調査している。担当者は「まずは論点を整理することが重要だ」と語る。設置した研究会も共同親権の導入を前提に議論を進めていくわけではない。
例えば共同親権を採用する米欧には日本が単独親権のままでも参考にできそうな事例がある。米国では面会交流を民間の第三者が支援する体制が整っており、フランスでは民法典に「面会場」を明記している。片方の親による暴力や虐待を防ぐためのインフラをつくっている。面会交流の実務に携わる弁護士からは、家裁で家事調停の内容を調べる調査官の人員増や、民間の支援施設の整備を求める声もある。共同親権を導入するか否かとは別に、まず米欧諸国を参考に面会交流の支援策を考えるべきだという意見だ。
研究会の議論は20年に本格化する。結論を出す時期は未定だが、民法改正が必要な共同親権を導入するか否かの判断はその後になる。立場によって利害が大きく食い違う問題だ。親が主張する権利で子が不利益を被らないよう、子の視点を意識した慎重な検討が必要になる。

アクセス数
総計:1142 今日:1 昨日:1

powered by Quick Homepage Maker 5.2
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional