両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

令和2年8月22日、AERAdot.

親による「子の連れ去り」が集団訴訟に発展 海外からは“虐待“と非難される実態とは

―別居した夫婦の子どもが一方の親に連れ去られた状態のまま放置されているのは、法の未整備が原因――こう訴える別居中の親ら14人が、国に対して原告1人あたり11万円の国家賠償を求める集団訴訟が7月29日、東京地裁で始まった。原告側は、「片方の親がもう片方の親から一方的に子どもを引き離す子の連れ去りを禁止する法規定がないのは、子を産み育てる幸福追求権を保証した憲法13条に違反し、連れ去られた子の人権も侵害している」と主張。一方、被告の国は、請求棄却を求めて争う姿勢を示している。離婚後は父母のどちらかを親権者とする「単独親権」の問題はこれまでも議論されてきたが、集団訴訟にまで発展した背景には何があるのか。

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「法治国家なのに連れ去った者勝ちというのは、理屈からしたらおかしい。先に引き離してしまえば、親権を得るうえで断然有利になる。この状況を放置しているのは、先進国で日本だけです」

 今回の訴訟で原告側代理人を務める作花(さっか)知志弁護士は、日本の「立法の不備」を指摘する。ここでいう「連れ去り」とは配偶者の同意なく、一方的に子どもを連れて別居し、片方の親との関係を(一時的に)断ち切ることを指す。作花氏によれば、国が「連れ去り」を禁止する刑法や民法、手続法を定めていないため、子どもを「連れ去った親」に目立った問題がなければ、裁判所がそれを追認するケースがほとんどだという。

「『法がおかしい』というよりも、『法がない』と表現するのが適切です」(同)

 こうした状況下では、別居中の親が「子どもに会えない」と訴えるケースは後を絶たない。作花氏は、その原因の一つが「離婚後の単独親権制度」にあると指摘する。民法では、離婚時に一方の親にしか親権が与えられないと規定されている。ひとり親世帯のうち、別居親と子の面会交流は44・3%しか実現していない(厚労省・2016年度「全国ひとり親世帯等調査結果」)。面会交流の取り決めをしていない理由については、「相手と関わり合いたくない」という回答が約24%を占めた。

 作花氏は、日本の単独親権制度は「国際社会から逸脱しており、時代遅れだ」と指摘する。世界的には、1980~90年代にかけてアメリカをはじめ、フランスドイツなどが次々と共同親権に切り替える動きが加速。2020年現在、G7加盟国で「離婚後共同親権」の制度を採用していないのは日本だけだ。

 また、日本も批准しているハーグ条約では、片方の親が一方的に16歳未満の子を海外に連れ去った場合、残された親の求めに応じ、原則として元の居住国へ引き渡すと規定されている。国内の「連れ去り」は条約の対象ではないものの、今回の訴訟で原告団は、「日本も国境を越えた連れ去りを禁じるハーグ条約に加盟しているにもかかわらず、国内の連れ去りを放置しているのは違憲・違法である」と主張している。

 こうした状況を「子どもへの重大な虐待だ」とみなした欧州連合(EU)は7月8日、日本人の親が国内で子どもを連れ去り、別れた相手と面会させないことなどを禁止する措置を早急に講じるよう、日本政府に要請する決議案を採択した。

 EUの対日決議を機に、「ようやく動き始めたという実感があります」と語る作花氏。11月には、自由な面会交流を阻む法制度について国の責任を問う別の訴訟も控えており、原告の中には親だけでなく、片方の親に会えなくなった子どもも含まれているという。

「こうした問題は連れ去られた親の人権だけでなく、子どもの権利の問題でもあります。本来、家族法は子どものためにある。子どもの成長にとってマイナスにならないよう、国が介入していかなければならない。解決規定となる法律を、国会が制定すべきです」(同)

 民間だけでなく、国会議員から国への働きかけも活発になっている。6月25日には、約90名の議員が所属する超党派の議連「共同養育支援議員連盟」が、森雅子法務相らに対し、養育費不払い解消に関する提言書を提出。離婚の際は、養育費の支払いと面会交流の双方を含む共同養育の取り決めが、離婚成立の要件とするよう求めた。

 議連に所属する三谷英弘衆院議員は「養育費の確保と親への面会、両方が必要だ」と訴える。

「子どもにとって必要なのは、成長できる環境。お金だけあれば子どもは育つわけではなく、愛情をもらう機会も不可欠です。物理的な面と精神的な面がそろって、初めて成長できる環境が整うのです。そのため、金銭面だけでなく、子どもが親にアクセスする環境を整えていくことも我々の使命です」

 三谷氏は子どもの親権をめぐるトラブルについて、「両者が交渉を進めるうえで、対等な関係にないことは問題だ」と指摘する。

「連れ去って育てている側が、絶対的に優位な側にいる。子どもを育てている側からすると、譲歩する必要性がないのです。一方、引き離された側は、何とか下手に出て、会いたいと乞うしかない。ひとたび子どもを取られ、会うのを拒否されれば、会うための手段がないのです」

 こうした状況になれば、子どもとの面会交流にも影響を及ぼすことになる。三谷氏は「夫婦間のいざこざで、不利益を被るのは子どもです」と強調する。

「面会を拒まれれば、自分のルーツや、愛情を注がれる機会を断ち切られてしまう。離婚した親からしたら、過去を忘れたいというのが本音だと思いますが、子どもがいる以上、過去は清算できません。子どもの利益を最大化していくことが大事なので、別れてもお互いが父親であり母親なのだという意識が広がってほしいです」

 では、こうした実態を国はどう捉えているのか。

 集団訴訟について見解を問うと、法務省の担当者は「(今回の訴訟については)厳正に対処する。国として立証すべきことを果たしていく」とし、それ以上のコメントは控えた。だが「あくまでも一般論だが」と前置きしつつ、こう続けた。

「法律に不備があるとはとらえていない。離婚前後に取る手続きは、現行法でも十分に対処できる内容。その法律をどう運用するかは裁判所の判断になるが、制度がないというのは誤解」

 親権者の決め方についてもこう述べる。

「親の状況や子の状況を総合的に判断して決めるので、子を連れ去った側が自動的に親権者になるわけでは決してない」

 EUからの非難決議が出されたことについて見解を問うと、

「一つの意見としては受け止める。だが、制度に関していえば、国境をまたぐ事案も国内の事案も、条約違反であるとは認識していない」

 と答えた。ただ、「その使い勝手や運用に対して、さまざまな批判があることは認識している」とも認める。

「ただちに違憲や条約違反とはならないと捉えているが、未来永劫、今の法律が100%正しいというわけではない。今後も意見を受け止めていく」(同前)

 集団訴訟にまで発展した「連れ去り問題」は、別居後の親子関係を変える契機となるのか。裁判のゆくえが注目される。(取材・文=AERAdot.編集部・飯塚大和)

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