両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成29年3月2日、琉球新報

<社説>ハーグ条約初適用 主旨周知し子の利益守れ

 不幸な境遇に置かれた子の利益を第一に考えたい。そのためにも条約の周知を徹底したい。
 県内の女性が「ハーグ条約」に基づき、米国人父親の両親と暮らす1歳の娘の返還を求めた申し立てについて、米フロリダ州連邦地裁は母親の請求を認めて娘の返還を命じる決定を出した。「子どもの通常の居住国は日本」と同地裁は判断した。
 今回の裁判は米国人と結婚し、米本土で暮らしていた女性が妊娠中に夫の暴力に遭い、帰国したことが発端となった。娘は帰国後に生まれている。その後、娘の親権を主張する父親の訴えを裁判所が認め、女性は子どもを失った。
 夫の暴力で夫婦関係が破綻した経緯を考えても、条約に基づく地裁決定は妥当だ。一日も早く、女性が娘と再会できるよう当事者や関係者の理解を求めたい。
 両親の離婚などで国境を越えて引き離された子どもの取り扱いを定めた「ハーグ条約」に日本は2014年4月に正式加盟した。条約は子どもを元の居住国に戻すことが原則で、県内からの返還申し立てが認められたのは初めてだ。
 国際結婚の増加に伴い、その後の離婚で一方の親が子どもを連れ去り、もう一方の親に面会させないという「子の連れ去り」が問題視されるようになった。
 国境を越えた連れ去りは、言葉や生活基盤など子どもを取り巻く環境を大きく変えてしまう。成長に有害な影響を与えかねない。特に家庭内暴力が要因となって国際結婚が破綻した場合、子どもの処遇は深刻な問題となる。子どもの利益を守るためにも「ハーグ条約」の円滑な運用が必要だ。
 憂慮されるのは正式加盟から約3年を経過した現在でも「ハーグ条約」の存在自体が十分に周知されていないことだ。
 沖縄のように米軍基地が集中する地域では、条約の適用対象となり得るような事案がほかにも起きている可能性がある。条約に基づく子どもの返還請求の手続きを知らないまま、当事者が泣き寝入りするようなケースを防がねばならない。
 沖縄は復帰前から国際結婚を巡る課題と向き合い、解決を模索してきた。その経験を踏まえ、「ハーグ条約」の運用にも積極的に関わる必要がある。市町村に担当窓口を置くなどの主体的な取り組みが求められる。不幸な親子を救うための手だてを急ぎたい。

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