令和2年10月7日、朝日新聞
離婚後の養育、子どもの目線で 面会交流を求めて、母親ら訴え
結婚が破綻(はたん)した夫婦の子どもの養育について、法務省も参加する研究会が議論をしています。父母の一方が子どもを連れて別居すると、もう片方の親と子どもが会えなくなったり、養育費が支払われなかったりすることが問題になっているためです。子どもにとって望ましい離婚後の養育制度について探りました。(杉原里美)
■親権争いで連れ去りも「精神的な虐待では」
「ママにも会わせて」
「我が子に会いたい」
9月半ば、子どもと別れて暮らしている親らでつくる「親子の面会交流を実現する全国ネットワーク」(親子ネット、会員512人)が、都内で記者会見を開いた。夫婦の離婚や別居で子どもと引き離された母親ら23人が参加。子どもとの面会を訴えるプラカードを掲げ、苦しい胸の内を語った。
3年間、3人の子と会えていない30代の母親は、子連れで夫と別居しようとした日に、夫と義母が子どもを実家に囲い込み、引き離された。
家庭裁判所に申し立てたが、家裁は「現在子どもは問題なく生活している」と現状を認め、別居中に子どもを監護するのは夫と指定した。
女性は面会交流が認められず、手紙や写真の交流だけに。夫から送られてきた写真には、子どもが母親からの手紙を破っていたり、「しね」「ババア」などと書かれた紙を持っていたりする姿が写っていた。学校に相談しようとしたが、子どもと同居していないため、離婚の成立前なのに保護者と認めてもらえず、話も聞いてもらえなかった。「子どもへの精神的な虐待ではないか」と児童相談所に調査を依頼したが、「身体的な虐待ではない」と対応してもらえなかったという。
別の30代の母親は、離婚協議中だった7年前、夫と義父母、義兄夫婦によって、当時5歳と2歳だった子どもを義兄の運転する車に押し込められて連れ去られた。夫から「有利な離婚の仕方を知っているから」と言われたことを思い出し、「このことだったのか」と気づいたという。
彼女の場合は連れ去りが悪質だとして、家裁の審判で1年後に子どもが引き渡されたが、これは異例なことだ。
日本では1960年代半ば以降、親権を母親が持つ離婚が増え、9割にのぼる。そのため、親子ネットは従来、子どもと会えない父親会員が主流だった。だが近年、母親会員が急増し、約3割いる。アンケートに協力した母親50人のうち、離婚や別居前に主な養育者だった人は90%、夫から暴力を受けていた人は76%にのぼる。家裁の手続きなどで子どもの引き渡しを求めたのは42人、そのうち引き渡された人は3人に過ぎない。
武田典久代表(52)は、「子どもを手元に確保すれば、監護の継続性で親権や監護権の獲得に有利になるという情報が知られるようになり、父親による連れ去りも増えたのではないか」と話す。
日本では、離婚届で親権者を決めて提出するだけの協議離婚が9割弱を占める。民法では、離婚時に父母との面会や交流、養育費の分担を協議すると定められているが強制力はなく、家裁の調停や審判で取り決める人はわずかだ。
■会う日程など書面義務化、子の心理状態を親に教育 韓国
日本と同じように、離婚届を出すだけの協議離婚制度がある韓国では、2008年から、子どものいる夫婦については、離婚届と同時に、養育費の金額や受取口座、面会交流のスケジュールを決めて記入した養育協議書を家庭法院(家庭裁判所)に提出することが義務づけられた。
父母の取り決めを実行させるための後押しもある。養育費には、養育費履行管理院という徴収機関が設置されている。ソウルなど8カ所にある家庭法院のうち3カ所には「面会交流センター」が併設され、月2回、最長1年まで無料で利用できる。今秋には、同センターのホームページを開設し、今後5年間で地方法院(地方裁判所)も含め12カ所に設置する計画だ。
離婚届を提出する際には、家庭法院で子どもの心に寄り添うための親教育を受けなければならず、離婚相談も法院内で受けられる。面会交流センターを持つ仁川家庭法院のチェ・ボッキュ前院長は、「子どもの心理状態を教育することで、夫婦の葛藤が緩和され、子ども目線で考えられるようになる」と話す。
仁川家庭法院では、年間約200件の面会交流を実施しているという。
日本では、厚生労働省が面会交流を支援する事業を行う自治体に補助する制度があるが、利用は東京都、沖縄県、北九州市など9自治体にとどまる。親子ネットは、「養育費に比べて、面会交流の議論が進んでいない」として、支援の拡充を求めている。
法務省や学者、弁護士らが参加する「家族法研究会」が、別居中や離婚後の子どもの養育のあり方について議論を始めたのは昨年11月だ。
立命館大の二宮周平教授(家族法)は、「日本の協議離婚は、当事者の協議にゆだねることになっているが、実際には話し合いはできていない」と指摘。「家裁が、離婚が子どもに与える影響や基礎的な情報を父母に提供し、自治体が離婚相談に対応する仕組みを作れば、韓国のような制度は導入可能だ」と話す。
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