非常事態における親子交流
新型コロナウイルス禍における別居親子の交流
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により7割以上が全く面会できなくなったり減ったりしていた(他団体調査)と報道されました。
これらの報道を受け、法務省は「面会交流」について、2020年5月1日にホームページで「決められた方法で実施すると、子どもの安全を確保することが困難になる場合も生じ得るものと考えられる」として、当事者による話し合いが可能な場合には、テレビ電話や電話といった代わりの方法を検討するよう促しています。
法務省のホームページに掲載された内容は以下のとおりです。
【新型コロナウイルス感染症関係情報】面会交流について
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00033.html
今般の新型コロナウイルス感染症に関連して,子どもの安全の確保や感染拡大防止の観点から,事前に取り決められていた条件での面会交流を実施することが困難な状況が生じた場合にとり得る対応について,以下のとおりご案内します。
1 面会交流は,子どもの健やかな成長のために重要なものですが,新型コロナウイルス感染症の拡大が問題となっている現在の状況の下では,従前取り決められた方法で面会交流を実施すると,子どもの安全を確保することが困難になる場合も生じ得るものと考えられます。
したがって,そのような場合には,面会交流の方法を変更すること等を検討していただく必要があるものと考えられますが,父母間で話合いをすることができる場合には,子どもの安全の確保に最大限配慮し,どのような方法で面会交流を実施するのが相当かについて話し合ってください。
例えば,これまでは,直接会う形での交流を続けてきた場合でも,子どもの安全等を考慮して,一定の期間,通信機器等を利用した方法での交流や,手紙での交流等に変更することを検討するときには,次のような事項について話合いをすることが考えられます。
○ 代替的な交流の方法(例えば,ビデオ電話,電話,メール等)
※ ビデオ電話や電話等の場合にはどちらから掛けるかも決めておくとよいと考えられます。
○ 日時(例えば,毎週何曜日の何時から何時まで等)
○ 代替的な交流の方法を用いる期間
○ その他,円滑な交流のために必要と考えられる項目
2 これに対し,父母間で落ち着いた話合いをすることが困難な場合には,互いに様々な不安を抱える状況にあること等を考慮して,無理に当事者間で話し合おうとはせずに,必要に応じて弁護士等の専門家に相談するようにしてください。
3 面会交流について知りたい方は,以下のホームページをご覧ください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00017.html
また,悩んだときは,専門家に相談してください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00013.html
海外の取り組み
2020年5月1日の法務省の発表を受け、早稲田大学の棚村政行教授は「子どもの健やかな成長のために面会交流はとても大事だが、新型コロナウイルスの影響でうまくいかなくなっていることに対して、国が情報発信をしてくれたことは評価できる」と話す一方で、アメリカやイギリスなど諸外国では、面会交流の詳細な指針を示し、子どもが相談できる窓口が設けられているとして「現在のままでは、細かく指針を示せてはいない。面会交流が実際に滞っている、あるいはうまくいっていない親が、具体的に何をすればいいのかを丁寧に説明する必要がある」と指摘しています。
法務省は、非常事態においても親子交流などの調整を平常時と同様に「当事者である親任せ」にしており、両親の合意形成が困難な場合は親子交流が閉ざされることとなります。また、必要に応じて弁護士等の専門家に相談するようにと案内していますが、これまでも「弁護士が親子交流を妨害する」事案が多数発生していることを鑑みると、親子断絶が一層進むと危惧されます。
法務省がニュージーランドのような「子どもの最善の利益に叶う」明確な指針や子どもや親の支援策を示し、親子が断絶しない施策を早急に実施することを期待します。
ニュージーランド ~家庭裁判所判断による子どものケアに関する明確化指針
ニュージーランドでは、家庭裁判所の判断により子どもへのケアに関する明確化指針がニュージーランド家庭裁判所裁判官長名で出されています。
以下、明確化指針の和訳(参考意訳)です。
明確化指針原文 PDF:https://www.districtcourts.govt.nz/assets/Uploads/Media-Releases/24-March-2020-Children-in-shared-care.pdf
ニュージーランド家庭裁判所裁判官長
2020年3月24日
ニュージーランド家庭裁判所裁判官長
それぞれの父母からケアを受けている子ども達ーコロナウイルス
家庭裁判所判断による、子どもへのケアに関する明確化指針
家庭裁判所の判断に従う、父母双方による子ども達の養育、交流の調整に関する疑問点に関して、モラン・ジャクリン家庭裁判所裁判官長が以下の指針を示します。
・子の最善の利益に照らし、当該指針に従わない考慮による対応は、父母双方にて行われる。
・警戒レベル4の対応は、ニュージーランドにおけるコロナウイルスの拡散を防ぐ為である。
自宅にて過ごす事は、警戒レベル4において命を救う為のカギである。
・父母双方による子ども達の養育、交流が行われるにあたり、家族が異なる町や地域にくらしている場合、子ども達や家族の安全は、特に3軒以上にまたがり暮らしている場合は特にであるが、家の行き来によって妥協されるべきでは無い。
・一般に、同じ地域にいる子ども達は、それまでと同様に家の間の行き来ができる。但し以下の場合を除く
○子どもの体調が悪い場合。この場合は、体調が回復するまで家の間を行き来するべきではない。
○それぞれの家にて、体調の悪い人がいる場合
○子どもの居る家、もしくは移動先の家に、過去14日以内に海外に滞在していた人、最近にコロナウイルスの検査を受けている人、もしくはコロナウイルスに感染している人やコロナウイルスの検査を受けている人と濃厚接触のあった人がいる場合。
・父母双方や子ども達の世話をしている者達が、コロナウイルスによる脅威を認識し必要な対応に合意しないと、父母双方による子ども達の養育、交流が、コロナウイルスを拡散させてしまう可能性が潜在的にあるかどうかについて、意見を交換するべきである。
その意見の交換は、子ども達が最初の4週間は一方の家で過ごすかもしれないという事を意味するかもしれない。
・子ども達の移動に際して、
○家と家を行き来する場合に、大人が付き添う事
○可能な際には、自家用車を使う事。他に手段がない場合には、公共交通機関でも構わない。
・これらの指針により子ども達の移動ができない場合には、裁判所は、子ども達が電話やソーシャルメディアなどの連絡手段により、惜しみなく寛大に、他の家にいる父母や家族と連絡を保つであろうと考えている。
・父母双方はこの事態において、双方もめるべきでは無く、子供と家族、より広い地域社会の最善の利益の観点で判断をしなければならない。この世界的なコロナウイルスによるパンデミックは、父母のどちらかが一方的に、これまでに確立されてきた父母双方による子ども達の養育、交流の調整を原因なく変えてしまう機会であると、また、子の最善の利益や裁判所命令と矛盾した行動を取る機会であると、捉えられるべきではない。
・最新の情報は、政府のコロナウイルス対応のウェブページを参照してください。
子ども達は、これまでにも増して大切にされなくてはならない事、そして、子ども達の幸福や、特に安全も注視すべき時である事、これらを家庭裁判所裁判官長として強調いたします。
そして、大切であるのは、父母等に愛されている子ども達自身もこの強調している内容を認識し、安全で健康であり、そして、双方の父母や世話をしてくれる人に会える事である事を模範として示します。
家庭裁判所は、引き続きコロナウイルスの警戒レベルに応じながら対応致しますが、通常時に比べ対応能力が限定されている為、優先順位に応じて対応しております。
以上。
(参考訳)
フランスの外出制限下における面会交流の方針
フランスでは、法務省のプレスリリースで以下の内容を発表しています。
・外出制限下においても、裁判所の決定の条件に従って別居親と子どもが原則として面会できなければならない。
・正当な理由なく別居親の権利を妨げた(面会が実施されない)場合には、懲役1年の刑罰と15,000ユーロの罰金が科される可能性がある。
・面会は、健康に関するガイドライン(規則)に従って行使する必要がある。
2020-05-06 (水) 16:17:24
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