両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

令和2年12月27日、AERA.dot

共同親権になっても別居親は「子どもに会えない」? 共同養育ができる親の“資質”とは

 近年、離婚をしたら父母のどちらかしか子の親権を持てない民法の単独親権制度の見直しを求める声が強まっている。離婚後の単独親権は親の子育ての権利を侵害しているとして、最近は違憲性を問う国家賠償訴訟が続いている。現在進行中の訴訟だけでも6件、今秋には、子どもが原告となって国を提訴したことも話題となった。

 世界の先進国のなかで、離婚後の単独親権制度をとっているのは日本だけ。これに対して、最近は諸外国からも非難の声が上がっている。2月には、国連の「子どもの権利委員会」が日本政府に対し、外国籍の親も含め離婚後の共同養育を認める法改正や別居親との接触を続ける方策を実現するよう求めた。

 こうした動きもあり、共同親権の法制度化の機運は高まりつつある。なかでも、離婚・別居後の面会交流が遂行されず、「子どもに会えない」と嘆く別居親たちの期待は大きい。

「共同親権制度にさえなれば、子どもに会えるようになる!」

 との声はよく聞かれる。

 しかし、家族間の紛争を多く手がける弁護士の土井浩之氏は、「共同親権制度に過度な期待は禁物だ」と警鐘を鳴らす。

「外圧をかわすためのトリックとして、たとえば“選択的”共同親権といった骨抜きの制度になってしまうのがいちばん心配です。これだと夫婦間の同意がなければ共同親権にならないわけなので、いまよりむしろ係争が増えてしまう可能性もある。離婚・別居後も両親が子育てに関わるためには、原則的共同親権でなければ意味がない。当事者は、子どもの健全な成長のために実効性のある法律ができるよう、しっかりと声をあげていくべきでしょう」

共同親権=共同養育ではない

 そもそも、共同親権制度が実現すれば、別居親が「子どもに会えない」状況がすぐに解消されるわけではない。なぜなら、まだ離婚していない、つまり子どもの親権をもっている別居親であっても、同居親によって子どもに会わせてもらえないケースは多いからだ。

子どもの連れ去りの目的が親権獲得であるとしたら、離婚後の単独親権というゴールがなくなることには大きな意味があると思います。でも、子どもを連れて逃げる親は、とにかく相手から離れたいという切羽詰まった気持ちであることも多いので、法律が変わったからといって『そうですか、では一緒に子育てしましょう』とはならないでしょうね」(土井氏)

「離婚しても親はふたり」というスローガンを掲げ、離婚・別居後も両親が子育てにかかわる共同養育サポートを行う一般社団法人りむすび代表のしばはし聡子氏も「共同親権=共同養育ではない」と言う。

「もちろん共同親権になることで、離婚後も両親が子どもを育てることが当たり前だという意識が世の中に浸透していけば、共同養育のキックオフがスムーズになるというメリットはあると思います。しかし、法律だけで人の心を動かすことはできません。子どもが親の顔色を見ずに自由に行き来でいるような共同養育を実践するためには、計画書をつくるだけではなく、破綻した夫婦が親同士として関係を再構築していくための努力が必要です」

争うより歩み寄り

 では、破綻した夫婦が、夫婦としてではなく、親同士として関係を再構築していくにはどうしたらいいのだろうか。離婚する夫婦の1割が調停離婚だと言われているが、土井氏は安易な調停の利用に懸念を示す。

「昔の日本では、親戚や近所の人、職場の上司など身近な人たちが、夫婦がうまくやるための知恵をつけてくれたり、もめごとの仲裁をしてくれたりしていました。今はそれがなくなり、夫婦のいさかいがいきなり調停の場に移ってしまうこともある。調停は本来、第三者の立ち会いのもとで夫婦間の冷静な話し合いを持つための場です。でも実際には、離婚したいかしたくないか、離婚するなら慰謝料や養育費はどうするかという現実的な話し合いが始まり、少しでもよい条件を得るために相手を攻撃し合う場になってしまっている。これでは、むしろ夫婦の葛藤は上がってしまいます」

しばはし氏は、土井氏の意見に同意したうえで、こう続ける。

「調停中に対立構造が深まり、別居前よりも関係が悪化しているケースは多くあります。関係を再構築をするためには、相手に正論をぶつけて責めたり追い詰めたりせず、お互いの気持ちを尊重する作業も大切。拳を下げれば相手の態度は次第に軟化するでしょう。たとえば、妻が離婚したい意向が固いにもかかわらず、自分は悪くないから絶対に応じないとかたくなに粘っている間は、妻の心は離れていくばかり。いったん『離婚したいという気持ちはわかったよ』と受け止めると、妻は『初めて私の言うことを理解してくれた』と思えて、心を開き始めることもあるのです。一方で同居親は、子どものために自分の感情と親子関係を切り分けることが必要。共同養育に前向きな姿勢を見せることで相手も穏やかになっていくでしょう」

「ありがとう」「わかった」を意識して

 しばはし氏によれば、歩み寄りに必要なのは、“感謝”と“尊重”のコミュニケーションだ。

「夫婦の感覚を引きずっていると、つい言い返したり思い通りにしようとしてしまいがちですが、否定せずにまずは『わかった』『ありがとう』と受け止めること。そして、相手を変えようと説得するのではなく、自分自身が共同養育しやすい相手に変わることが結果して共同養育への近道になるのです」(しばはし氏)

 特に男性は「譲歩すること=負け」と捉えがちだが、裁判では関係ないという。

「謝ると調停や裁判で不利になると思い込んで、絶対に謝らない人もいますが、そんなことはないんですよ。虚偽DVなどを主張され、自分にはまったく非がないと思える場合でも『個別の出来事について、相手の言い分を認められなくても、その時の相手の気持ちがそういうものだったかもしれない』などと言い方を工夫すれば、いくらでも謝ることはできると思います」(土井氏)

 子どもがいて離婚する場合、相手に勝つことを目的にしてはいけない。正論を振りかざし、たとえ相手をこてんぱんにやっつけることができたとしても、相手は子どもの親なのだ。子どもの親同士として最低限かかわれる関係性を保つことが結局は、自分も子どもも幸せにする。

 共同親権制度が、共同養育の土台になることは間違いない。しかしそこには、制度だけでは解決できない心の問題が厳然としてある。離婚・別居後の子どもの幸せのために、私たちにできることは何なのだろうか。(取材・文=上條まゆみ)

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