両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

令和3年11月9日、FNNプライムオンライン

「子供とって最適な形で」日本でも“共同親権”導入の是非検討…単独親権との違いと課題

現在日本においても導入の是非が検討されている共同親権。

それは「子に対する親権を父母の双方が持っていること」又は「父母が共同し、合意に基づいて子に対し親権を行うこと」を指します。

一方、現在の日本で認められている単独親権は、離婚の際に父母のどちらかに親権を与える制度(民法819条1項)です。

日本の民法は時代の波に対応できていない

すでに共同親権制度は先進国のほとんどで採用されていますが、日本では、今のところ、離婚すると単独親権の一択しかなく、熾烈な親権争いが繰り広げられる原因となっています。

現在の民法はそもそも1896年(明治29年)に制定されたものであり、何度か改正はされたものの、いまだ女性が家事や育児をやるのは当然だという旧態依然の男女の役割分担の意識が強く反映されたままです。

つまり、少子化や共働き世帯の増加、父親の育児参加などの子供を取り巻く状況の変化や時代の波に対応しきれていないのです。

いまや、時代の風潮にあった法律の改正が必要であることは明らかであり、その大きな議題として、共同親権制度への移行が議論されているのです。

世界で認められている「共同親権制度」とは

ここで、共同親権について世界の情勢を見てみましょう。

法務省の調査によると、日本以外ではインド及びトルコが単独親権制度を採用していますが、その他多くの先進国は離婚後の共同親権も認めています。つまり先進国では、単独親権制度を採用しているのは日本くらいなのです。

運用は国ごとに差異があるものの、裁判所の判断等がない限り、原則として共同親権とする国(ドイツ、オーストラリア等)、父母の協議により単独親権とすることもできる国(カナダのブリティッシュコロンビア州、スペイン等)、父母のいずれもがそれぞれの親権を単独で行使できる国(イギリスのイングランド及びウェールズ、南アフリカ等)があります。

日本で繰り広げられる離婚時の「親権」をめぐる大変さ

単独親権を採用する日本では、夫と妻がともに親権を希望した場合は容易ではない道のりが待っています。

まず、日本では離婚時には必ず子供の親権を父母のどちらかに決めないと離婚することができません。したがって、父と母がともに親権を希望すると、“親権争い”をしなければなりません。

父母間の協議で話がつかない場合、裁判所に調停を申し立てることになりますが、調停も所詮は話し合いの場です。決着がつかない場合には、最終的に離婚訴訟までもつれこむことになります。お互いに相手が「親権者にふさわしくない」と言った激しい攻撃や相手からの攻撃に対する防御を繰り返した挙句、裁判所の判決により親権者が指定されることになります。

家庭裁判所の調査官が子供の養育環境を調査するため家庭訪問をしたり、関係各所に話を聞いたり、子供の意向を確認したりすることも必要となってきます。本格的に争った場合、1年以上の時間がかかることも珍しいことではありません。もちろん、弁護士を依頼した場合は少なからず弁護士費用もかかることになります。

また、判決が出て親権者がどちらかに決まったとしても、すべてがうまくいくわけではありません。訴訟で攻撃や防御を繰り返したことで、父母間の感情的な対立は非常に悪化しています。

親権を取った側は、子供の親権を争った相手には子供と面会交流させたくないと思いがちですし、子供と面会交流をさせてもらえない相手は、養育費なんて支払いたくないと思うことが多いです。

つまり、どちらが勝っても負けても、面会交流を実施してもらえなかったり、養育費を支払ってもらえないなど、お互いに禍根を残すことになってしまうのです。加えて、板挟みになった子供にも大きな精神的な負担がかかることは言うまでもありません。

共同親権の課題

2011年(平成23年)に民法が改正された際に、「親権は子供の利益のためのもの」であることが確認されました。

日本の法律で共同親権が採用された場合は、非親権者が子供の個人情報すら教えてもらえないといった現在の状況は大幅に改善されるでしょうし、父母ともに子供に対する責任感が生じてきやすいと思われます。

ただ、共同親権にも課題がないわけではありません。

おおよそ次の問題があるとされています。

1つ目は子供の教育方針です。父母の対立は根本的に緩和されず残存しています。そもそも離婚するくらいですからお互い相入れない意見を持っている可能性が高いため、子供をめぐる意思決定に時間がかかると思われます。特に、子供の教育方針について意見が対立した場合など、意思決定が遅れることで子供への悪影響も懸念されます。

2つ目はDVや児童虐待です。DVや児童虐待等の問題があった配偶者の場合、共同親権では離婚しても縁が切れず、関係が継続することになります。DVや児童虐待の問題の解決は難しく、共同親権制度を採用することで被害の継続・拡大が危惧されます。

3つ目は負担が子供にもかかることです。父母の共同親権のもと、子供が頻繁に父母の家を行き来するようになると、子供の負担が大きくなります。子供が父母の家のどちらが自分の家かわからなくなり、精神的な安心感を得られなくなることもあるでしょう。また父母間の家の移動に時間がかかるなど、子供の時間を奪うことにもなり、体力的にも精神的にも疲弊することが懸念されます。

今後、こうした課題を解決するためには、「子供の利益」という観点から、個別具体的に対応策を議論すべきだと思われます。共同親権を導入するか否かという法改正の是非のみならず、共同親権を採用したとして、どのように運営していくのかを行政機関の対応も含めて慎重に議論する必要があるでしょう。

2021年(令和3年)2月には上川陽子法相(当時)が法制審議会に諮問をしており、「共同親権を含む家族法制の見直し」については法制審が議論を開始しています。

日本で共同親権制度を導入するのか、導入するとしてどのような形で施行するのかについては、日本の家族制度のあり方自体を大きく変えることになります。共同親権制度を採用するのであれば、子供とって最適な形で実施することが望まれます。

特に、離婚原因がDVや児童虐待などであった場合は、被害を受けていた側は二度と接点を持ちたくないと考えるのは当然のことです。離婚後も積極的に自分の子供に関わっていきたいと「共同親権」を望む声もありますが、今後日本において共同親権制度を導入する際には、共同親権者として明らかにふさわしくないと客観的に判断されるような親については例外規定を設けることも慎重に検討する必要があるものと考えます。

後藤千絵
京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

フェリーチェ法律事務所:https://felice-houritsu.jp/

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