令和3年5月24日、NewSphere
日本が参加しない「消えた子供の日」国際デー
5月25日は、国際行方不明児童の日だ。シンボルは「私を忘れないで」の花言葉を持つワスレナグサ。2001年から存在する国際記念日だが、日本ではほとんど語られることがない。
◆レーガン米大統領が最初に提唱
なぜ5月25日なのか。理由は1979年に遡る。この日ニューヨークで起きた6歳の男児誘拐事件は、全米に情報の公開と捜索ネットワークの重要性を認識させた。4年後の1983年、当時のロナルド・レーガン米大統領が「行方不明児童の日」を制定するにあたり、この日を選んだのだのはそのためだ。その後、1998年には、グローバル・ミッシング・チルドレンズ・ネットワーク(GMCN)が立ち上がり、行方不明となった子供たちの捜索に関する支援を始める。この運動に賛同する国はその後増え、いまでは4大陸の31ヶ国が加盟している。アジアの加盟国には韓国や台湾があるが、日本は非加盟である。また、1999年にはベルギー・ブリュッセルに児童失踪・児童虐待国際センター(ICMEC)が公式に設定され、「行方不明児童の日」は、2001年から国際的な記念日となった。
◆世界で年間100万人が行方不明に
では、実際、行方不明になる子供はどのくらいいるのだろうか。ICMECによれば、行方不明となる子供は年間100万人以上に上る。アメリカで約46万人、イギリスで約11万人、ドイツで約10万人、インドで約9万6000人、カナダやロシアでは約4万5千人、オーストラリアとスペインで約2万人、ジャマイカで約2000人という見積もりをICMECは挙げているが、付記にある通り「これは大雑把な把握でしかない。行方不明になった子供の統計データすら手に入らない国は多い」ことも忘れてはならない。
次に、行方不明になる理由はなんだろうか。フランスの「行方不明者の支援と捜索」協会(ARPD)によれば、最も数が多いのは家出だ。ARPDは、EU内では毎年約25万人の子供が行方不明になっていると記すが、家出を理由とするものは、そのうち50%以上を占める。そのほかの理由としては、犯罪に巻き込まれた可能性のほか、親による実子誘拐などが挙げられる。
◆実子誘拐とは?
日本では馴染みの薄い概念だが、実子誘拐とは、文字通り、自分の子供を誘拐(拉致)するケースを指す。一番わかりやすいのが、別離状態にあるカップル間で生ずる問題だ。離婚カップルのケースで説明してみよう。欧州では、大抵の場合、離婚カップルの子供たちは、両親の間を行ったり来たりする生活をしている。週日と週末、あるいは、通学期間中と休暇期間中などのように父親と母親の話し合いで、監護期間をシェアしているわけだ。そういう状況にあって、他方の親に子供を任せるのを拒否したり、自分の監護担当期間を過ぎても子供を留め置いたり、あるいは他方の親に知らせず住所変更を行った場合は「実子誘拐」とみなされる。また、別離前のカップルであっても、他方の親の承諾なく子供を連れ去れば、それは「実子誘拐」となる。
実子誘拐の刑罰は厳しく、フランスでは、5日までの誘拐で1年以下の拘禁刑または1万5000ユーロ(約200万円)以下の罰金、5日を超える実子誘拐および外国への拉致の場合、3年以下の拘禁刑または4万5000ユーロ(約600万円)以下の罰金に処せられる可能性がある。
◆ヨーロッパには子供の失踪無料ホットラインも
フランスの例を続けると、2019年フランス国内で届け出のあった子供の行方不明者は5万1287人。そのうち4万9846件が家出、918件が不穏な失踪、523件が親による誘拐であった。幸い同国では、全体の「3分の1は72時間以内に、もう3分の1も失踪から3ヶ月以内に見つかる。(中略)しかし、残りの3分の1、つまり1万7000人ほどは完全に姿を消してしまう」という。(ウェスト・フランス紙)
ちなみに、ヨーロッパには年中24時間機能する無料相談ダイヤル116 000があり、子供の失踪に関する相談を受け付け、「残された家族への社会的心理的サポート」を行っている(同上)。
◆日本では何人が行方不明に?
では、GMCN非加盟の日本の状況はどうだろうか? 警察庁が昨年7月にまとめた「令和元年における行方不明者の状況」によれば、平成27年から令和元年の5年間で、行方不明者として警察に届け出があった未成年者の数は、毎年平均1万7000人以上を数える。諸外国と比べると少ないかもしれないが、無視できる数ではない。
一方で、日本では、別居時一方の親に無断で子供を連れ去っても、通常実子誘拐とみなされないので、その数は上の統計には入っていない。ちなみに、連れ去られた側の親が子供を連れ戻した場合は、罪に問われることが稀ではない。また、監護権を持つ親が、面会権をもつ他方の親との子供の面会を拒否しても、フランスのように直ちに「実子誘拐」とみなされることはない。これは、日本が、離婚後、父母のいずれか一方にのみ親権を認める単独親権制度をとっていることと無関係ではないだろう。日本以外の先進国では、離婚後も父母双方が共同親権を持つのが通常だ。この日本の「特異さ」は、すでに国際問題にも発展している。国際結婚の破綻にあたり、日本の論理で実子を誘拐する日本人親が絶えないからだ。
◆毎年15万人の子が失う親との縁
だがもちろん、問題は国際離婚に限られるわけではない。厚生労働省がまとめた人口動態統計によれば、2016年の日本の離婚件数は21万6798組。そのうち12万5946組が未成年の子がいる離婚件数であった。親が離婚した未成年の子は、21万8454人を数えた。東京国際大学の小田切紀子教授は、これらの子供のうち「3分の2は、もう連れ去られた側の親と会うことはない」(東洋経済)としており、絆を絶たれた側からみれば、毎年15万人近くの子供が「消えて」いることになる。
5月25日、「消えた」子供たちのさまざまな事情や背景を思い起こし、残された家族をケアする日。日本にも必要ではないだろうか。
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