両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

令和3年7月12日、デイリー新潮

「子の連れ去り」被害を訴えるフランス人男性 国立競技場前でハンガーストライキを開始

 いよいよ開幕が近づく東京五輪。その開会式の会場となる東京・千駄ヶ谷の国立競技場前で、フランス人男性が「子の連れ去り被害」を訴え、ハンガーストライキを開始した。「死んでも構わない。国際社会を動かし、我が子に再会できるまで続ける」と語る男性の覚悟とは――。

オムレツとアボカドだけ

 7月10日正午過ぎ。東京渋谷区のJR千駄ヶ谷駅前に、大きなリュックを背負った外国人男性が現れた。改札近くの柱の前に座布団を敷き、腰掛ける。同行する支援者が設置した幟には、日本語と英語でこう書かれていた。

〈ハンガーストライキ 拉致 私の子供たちは日本で誘拐されています〉

「今日のために1カ月間かけて準備をしてきました。最初の2週間は炭水化物なしの食生活。その後の2週間は1日1食、オムレツとアボカドだけで過ごしました」

 こう語るのは、フランス国籍を持つヴィンセント・フィショさん(39)。これから彼は、水以外は一切口にせず、ここで野宿して過ごすという。彼はつい先日まで、日本の大手証券会社に勤務する金融マンだったが、決起のため仕事も辞めた。なぜ、そこまでしてこのストライキに賭けるかというと、

「子供に会いたいからです。私の子供たちは母親によって“拉致”されてしまったのです。日本の裁判所や警察に訴え続けてきましたが、まったく進展がないままもう3年が経ちます。フランス政府、国連、メディアに掛け合っても全部ダメ。もう私の体を投げ出す最終手段しか残されていないのです」

ある日、突然連れ去られた

 ヴィンセントさんが来日したのは15年前、24歳の時。外資系金融機関の駐在員として東京にやってきた彼は、都内でのちに妻となる同い年の日本人女性と知り合ったという。意気投合した二人はやがて結婚。2015年には長男が誕生し、日本に永住する決意を固め自宅も購入した。だが、次第に夫婦仲は険悪になってしまったという。

「17年には長女も誕生したのですが、子育てや家事を巡って言い争いが絶えず、いつしか家庭内別居状態になっていました。妻とこのまま生活が続けられないと考えた私は、弁護士に相談し、離婚に向けた話し合いを始めました。ただ、あの時はまさか、こんな未来が待ち受けているとは思いもよりませんでした」

 離婚問題について話し合いが始まって、数週間が経ったある日のこと。仕事から帰宅すると、家の中はもぬけの殻となっていたという。家財道具、車、そして二人の子供まで。

「彼女は子供を連れてDVシェルターに駆け込んでしまったのです。そして、そのまま行方をくらましてしまった。もちろん私は、言葉も含めて、彼女に一切暴力をふるったことはありません」

 彼はすぐさま弁護士に相談し、警察に「妻が子供を誘拐した」と訴え出たが、まったく相手にされなかったという。

日本特有の親権制度

 このような実子の「連れ去り」は国内ばかりでなく、国際社会でも長らく問題視されてきた。日本は1994年に国連の「子供の権利条約」に批准、2014年にハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)に加盟しているが、国際結婚した日本人妻による連れ去り被害が絶えないため、EU諸国は条約不履行だと日本を批判してきた。20年7月に、欧州議会は、日本で横行する連れ去りに対して「子どもへの重大な虐待」と厳しく非難。日本人の親が日本国内で子供を一方的に連れ去り、別れた相手に面会させないことを禁じる措置を迅速に講じるよう日本政府に要請する決議案を採択した。だが、一向に事態は改善されないまま今日に至っている。

 日本社会では、妻が子供を連れて家を出てしまったという話をよく耳にするが、欧米では考えられないことだという。連れ去りは「誘拐」とみなされ、すぐさま警察が介入し、子供は連れ戻されるのが常識だ。

 なぜこのような違いが生じるのか。欧米では離婚した後も父母両方が共同で親権を持つのが一般的だが、日本では「単独親権制度」が採られているからである。離婚すると必ずどちらか一方が親権を破棄しなければならないため、離婚裁判で親権が争われる。その際、裁判官が「監護の継続性」を重視するため、先に子供を連れ去り、相手方と引き離してしまう手法が横行していると言われている。

 そして、連れ去る側がよく持ち出すと言われているのが、DV被害のでっちあげだ。もっとも、実際にDV被害にあっている配偶者もいるため、実態はわからない。だが、日本では、一方がDV被害を主張すれば、行政が事実の検証なしに住所秘匿の支援措置を出してしまう慣例がある。諸外国のように警察が司法介入してDVの有無を捜査することも滅多にない。そのため、子供を連れ去られた側は「連れ去り勝ち」だと訴え、「単独親権制度撤廃」を求める声が国内でも高まっているのである。

マクロン大統領に訴えたい

 妻が子供を連れて出ていった直後、ヴィンセントさんは家庭裁判所に子供の引き渡しと監護者を自分と定めるよう求める訴えを起こしたが、退けられた。現在は、妻から起こされた離婚訴訟が継続中だ。日本の裁判所に掛け合っても難しいと考えた彼は、母国フランスに対して強く働きかけてきた。

「2019年6月に、私は日本で同じような被害にあっているフランス人たちとともに、訪日中だったマクロン大統領と面会し、日本政府に働きかけてくれるよう頼みました。大統領は『受け入れがたいことだ』と言い、当時の安倍晋三首相に抗議してくれた。けれど、2年経っても進展しないままです。マクロン大統領は東京五輪のために来日する予定です。このハンストは、彼に対するメッセージでもあります」

 ハンスト中も常に頭から離れないのは、二人の子供たちのことだ。

「長男はパパが大好きで、毎朝私に『仕事に行かないで』とすがってきました。帰宅すると、靴を脱ぐ間もないくらいの勢いで玄関に駆け寄って、『一緒に遊ぼう』って。長女は母親に連れ去られた時は11ヶ月。まだ歩くこともできない状態でしたが、私に頬ずりされるのが大好きでした。彼らに会えない寂しさはもちろんあります。でも、私がこのような行動を起こすのは自分のためではない。父親を奪われ、寂しい思いをしている彼らのためなのです。もちろん、同じような思いをしている『連れ去り』被害者たちのためでもあります」

 こう語り、国立競技場を見据えるヴィンセントさん。決死の覚悟のハンストが実を結び、子供たちと再会できる日は来るのだろうか。

デイリー新潮取材班

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