令和3年8月4日、Japan In-depth
「子どもの立場で親権制度議論を」嘉田由紀子参議院議員
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・離婚後単独親権という構造を変えなければ、子どもの幸せは確保できない。
・単独親権派のロビイングパワーは強大。
・法務省に親権制度改革は大きく期待できない。政治が動くしかない。
離婚後の親権について日本は、父母のどちらか一方に行使を認める「単独親権」制度をとっている。120年以上前の明治民法の規定だ。これに対して欧米の多くの国では、離婚後も両親が共同で親権を行使する「共同親権」制度をとる。主要先進国のうち「単独親権」制度のみをとるのは日本のみ。国連の「児童の権利委員会」や欧州議会をはじめとして国際的な非難を浴びている。毎年約80万人しか生まれない日本の子どもの約4人に一人が毎年片親ロスになり経済的貧困やなどに追い込まれる。
「共同養育支援議員連盟」に所属する嘉田由紀子・参議院議員は、単独親権を定めた民法819条を「親子の分断」と非難する。
■ 単独親権派のロビイングパワー
大人も子どもも、「日本の単独親権が当たり前だと思っているが、親が離婚しても父子、母子の情愛的つながりは変わらないはずだ」と嘉田氏は指摘する。
「ロビイストたちが世論を徹底的に、共同親権は駄目だということを広めている。マスコミを使って。SNS を使って」
嘉田氏は、共同親権に反対する人物は様々な分野に存在し、彼らのロビイングパワーが極めて強力であることを指摘した。嘉田氏自身も、単独親権派のネットワークの強さを体感した経験がある。2019年度の参議院選挙に出馬したとき、いわゆる「落選運動」が嘉田氏に向けられたことを明かした。
■ 法制審議会家族法制部会に失望。政治が動かなくては変わらない。
「法制審議会家族法制部会」は、2021年3月30日、子どもの利益確保などの観点から離婚に関する制度を見直すため設けられた。審議会の内容について、嘉田氏は厳しい意見を述べた。
「(審議会の)議事録を丁寧に見ても、法律専門家の技術論や共同親権反対派の手続き的議論に終始し、本当に共同親権の必要性を求めている離婚後の子どもの声を代弁するような意見がほとんどない」
「問題は離婚後放置され、まさに無法地帯に置かれている子どもが毎年20万人ずつも増えていることは日本の未来社会の脆弱性を招く事」だと述べた。
さらに嘉田氏は、審議会のメンバー構成について言及。
「誰が(委員を)選ぶか。それは法務省の官僚です。法務省の官僚も共同親権は本心はやりたくないのではないか?過去2年間に参議院法務委員会で31回、共同親権問題で質問してきました。法務省の答弁は前向きではありませんでした」
嘉田氏は、その理由を「判検交流」と説明する。「判検交流」とは、裁判官と検察官の人事交流制度のことで、裁判官は検事として法務行政職に従事することができる。
「裁判官が検事になって法務省を支配しています。法務省の担当者はもともと裁判官ですから、既存の法律を変えたくないのです」
嘉田氏によると上川法務大臣は、本来法務大臣の指揮下にある法務省の担当者が法制審議会メンバーであることは合理的であり、彼らは法務大臣の指揮監督下にないことを説明したという。法制審議会は法務省官僚の「お手盛り」と言われかねない。
裁判官の人事権は、最高裁判所にある。
「最高裁判所の管理下に法務省があります。だから法制審議会が共同親権を主張するとは思いません。せいぜい「選択的共同親権」でしょう。それでは単独親権とほとんどかわりません。(変えるのは)政治しかないのです」
■ ヴィンセント・フィショ氏の事例について
親権制度をめぐる日本の司法制度は、ヴィンセント・フィショ氏の抗議行動によって、再び諸外国の注目を集めている。フィショ氏が提起するのは、「子どもの連れ去り」の問題だ。彼は、3年前、妻と一緒に家を出た2人の子どもたちとの再会を求めて、7月10日から3週間ハンガーストライキを行った。
フィショ氏のハンガーストライキについて嘉田氏の考えを聞いた。
「フィショ氏のハンガーストライキ、大変つらいです。日本を愛し、日本に長年住んで、家族を持ってくれている人が日本の民法の仕組みの中で、愛する子どもさんに会えないという状況を作り出してしまっている 。日本の立法府を担う国会議員の一人として大変申し訳ないと思っています。フィショ氏のように苦しんでいる日本の父親、母親、子ども達の為に立法府を担う国会議員として法律改正に向けて力を入れたいと思っています」
「(フィショ氏に向けて言いたいのは、)あなたが死んだらだめよってそれだけです。言いたいのは。あなたが命を守らなかったら子どもさんが何よりも寂しがるでしょう?と」
(編集部注:フィショ氏は転倒して小指を複雑骨折し、その手術の為、7月31日にハンストを中止した)
7月24日の日仏首脳会談では、「領事協力」として「両国は、子の利益を最優先として、対話を強化することをコミットする」と明記した共同声明が発出された。これについて嘉田氏は、「評価はするが、本当にこれで政府が動くのかと言うと、ちょっと期待はずれかもしれない」と懸念を示した。
「(共同養育支援議員連盟の)柴山(昌彦)幹事長と牧原(秀樹)事務局長がフィショ氏のところに慰問に行ってくれていました。これは大変心強い行動です。できるだけ早い段階でフランス政府との約束が守れるよう菅(義偉)総理大臣と上川(陽子)法務大臣に要望を出す必要があるだろうと、これはお二人にもお伝えしています」
「日本政府にも、何が国民を守るための法律なのか、民法改正に向けて本気で努力してほしい」
■ 「子どもの連れ去り」は刑法違反
嘉田氏は、今年4月13日の参議院法務委員会で「子どもの連れ去り」について質問し、上川陽子法務大臣と川原隆司法務省刑事局長から回答を得た。
実子連れ去りは、「未成年者の自由と安全」「監護側の監護権」を保護法益とする刑法224条の「未成年者略取・誘拐罪」に問えるということが明らかになった。(動画:参議院法務委員会2021年4月13日。3:53:10ころから)
離婚成立してない場合は婚姻中であるから、「子ども連れ去り」は、この刑法224条の未成年者略取・誘拐にあたることを政府が公式に認めたことになる。
「子どもの連れ去り」には、司法の内部に要因があるとも指摘される。そのひとつは、裁判所が親権者を定める判断基準、「継続性の原則」だ。「継続性の原則」とは、現在の子どもの監護環境に問題がなければそれを維持するべきとする考え方だ。親権を確保するため、弁護士が「子どもの連れ去り」を勧めることもあるとされる。また、「連れ去り」を正当化するため、虚偽にDV被害を主張するケースもあるという。
嘉田氏は、「DV防止法が甘い。言った者勝ちになっています。DV 防止法も警察がきちんと入るべきでしょう」と主張する。
「もちろん虐待や DV(が実際にある可能性) がある場合は、共同親権を義務化しても親権を外したらいい。今の民法だって親権停止・喪失の条文はあります 」
■ 単独親権という構造的問題
「議論を加速させるためには、単独親権の一番の被害者である離婚後、経済的貧困に放置され片親疎外にあっていて自己肯定感などを失ってしまっている子どもの立場からの議論が最も必要です。そこを私自身、法務委員会、議連の場、そして特にマスコミの皆さんに訴えたい」
嘉田氏は、フィショ氏の抗議行動を取り上げることに関して、日本のマスコミが及び腰であることに疑問を呈した。
「(親権制度について)マスコミも触れたくない。官僚も触りたくない。法務省も触りたくない。法律を変えて自分たちには得はないからという逃げでしょう。本当にこの国の未来が心配です。誰が子どものことを考えるんですか」
「日本の警察や司法は家族問題には介入しない。法務省はずっと家族の個別事案には入り込まないと言って逃げています。でも(民法は)離婚後片親親権(単独親権)と決めている。すでに家族のあり方を司法が構造的に決めている 。明らかに構造的に介入しています。この構造を変えることが子どもの幸せ確保の第一歩です。これが私の一番の言いたいことです」
(了)
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