令和4年10月19日、The Asahi GLOBE+
離婚しても子育ては半分ずつ 共同親権が当たり前のアメリカから見る単独親権の違和感
離婚後の子供の共同親権問題。日本ではこの夏、賛否が激しく対立する中、議論が物別れに終わりました。
離婚後の共同親権の導入を議論してきた法制審議会(法務大臣の諮問機関)は、中間試案の取りまとめを見送り、パブリックコメントで広く意見を募るはずだった予定自体も延期となりました。
結婚している間、夫と妻は協力し合い、子育てにいそしみます。特に意識することなく共同親権のもと、子供の成長に向き合っていきます。
日本の場合、離婚後は父母のどちらか一方しか親権を持つことができず、現行の法律では単独親権となります。もちろん、日本でも面会交流の取り決めをして、月に1度であったり、週末を一緒に過ごしたり、ということはあるかと思いますが、わたしの周囲の一般的なシリコンバレーのファミリーの場合、離婚後は「親権、まっぷたつの共同親権」の場合がほとんどです。
アメリカでは子供にとって最善の利益になるように離婚後の取り決めがされます。そもそも、日本のように「父親か母親のどちらかの選択」という概念がなく、離婚したからといって「片方の親が、子育ての蚊帳の外に置かれる」という風潮もなく、父親も母親も親権を望むので、よっぽどのことがない限り、単独親権にはなりません。
つまり、子供は両親の家を行き来して、平等に同じ時間だけ過ごし、両親は離婚後も2人で子育てを継続していきます。
小泉純一郎元首相が、離婚後に小泉氏が長男と次男を、元妻が三男を引き取り、長年交流がなかったことが報道された際には、周囲のアメリカ人から「そんな人が首相でいいの?」と聞かれたことがあります。小泉家には小泉家の事情があったのだとは思いますが、アメリカ人からすると理解し難いようでした。
共同親権 という意味の英語「Joint custody」には、一緒に住む権利の 「Joint physical custody」と 学校や習い事をどうするか、病気やけがの治療方針をどうするかなどを決定する権利の「Joint legal custody」 があります。
アメリカでは離婚後の子供の親権は各州によって法律が異なるのと、各家庭のそれぞれの事情により異なってきますが、離婚はすべて裁判所を通し、財産分与、養育費、子供に会う権利など細かい点まで協議、調停、裁判などのプロセスを経て合意に至った後に、ようやく離婚成立となります。
一度合意されると、日本によくありがちな一方の親が離婚相手に精神的苦痛を感じわだかまりがある、または、相手の再婚相手が気に入らない、などの感情論で子供との面会を拒否することはできません。
ちなみに、日本人の妻/夫がアメリカ人の配偶者の合意なく、離婚後に子供を連れて日本に帰ると、ハーグ条約により「誘拐扱い」になります。
合意までの過程の中で、それぞれの親が子供と過ごす基本的なスケジュールが決められます。ちょっと限定的な例えとなりますが、わたしの周囲のシリコンバレーのテック企業などで働く共働きカップルが離婚する場合、ほぼ共同親権で合意されます。両親ともに虐待、ギャンブル、アルコール中毒などの特別な問題がない場合です。
例えば、周囲によくあるのが水曜日の朝までパパの家、水曜の学校の後のピックアップはママ側が担当し、週末は隔週でそれぞれの親と過ごすパターン。3カ月弱ある夏休みなどの際は、3週間ずつ交代にしたり、11月のサンクスギビング(感謝祭)はママの家で過ごすのであれば、クリスマスはパパ側で過ごす、といった感じです。
子供は二つの家を行き来し、歯ブラシも二つ、おもちゃも二つ、洋服も2カ所に分けて(もしくはその都度持参して)、自分の部屋も二つという生活を送っています。
子供の誕生日会を離婚後も2人がそろってホストしていることも多いですし、子供のサッカーゲームを観戦しているシーンに遭遇するときもあります。
私の13歳の娘などは、住む場所は1カ所なのに、部屋の整理整頓がいまいちで、学校の用意も当日の朝ギリギリ、忘れ物もあります。場所が2カ所だと次の日や、次の次の日の習い事の用意など、先に先にと考えなければならず、大変だろうなあ、と想像したりします。子供が小さいうちは、それは必然的に親の仕事となります。
アメリカのカマラ・ハリス副大統領は、夫のエムホフ氏の前の結婚での子供2人に初めて会ったのは彼らがまだ10代の時だったそうですが、結婚後にステップマム(義理のお母さん)となったハリス氏は、Mom(ママ)とKamala(カマラ)を合わせて「モマラ(Momala)」と呼ばれているそうです。彼らも成長期にかなりの時間をハリス氏とも、実の母親とも過ごしたのではないかと思います。
日本の場合、今の若い夫婦が離婚した場合はもしかしたらそうでもないのかもしれませんが、私の世代では両親が離婚して、父親には(または、母親には)それ以来一度も会っていない、という知り合いが何人かいます。また、親側も、「別れた子供は今20歳になっているけど、10年以上会ってない」という知り合いもいます。
「DV(家庭内暴力)や虐待から子どもの安全を守れなくなる」など、共同親権に反対の意見は理解できます。加えて、親の一人がアルコールや薬物、ギャンブル依存などの問題を抱えていることもありえるでしょう。日本でさまざまな声が上がっており、反対理由もさまざまです。
アメリカではDVなどがあった場合は、監視下の元、第三者がいる状態で子供との面会が行われることが多いようです。
共同親権であれば、「すべてがスムーズでバラ色でいいことづくし」というわけではありません。両家を行き来する子供の精神的な負担や、親のストレスも、もちろんそれなりにあります。
離婚した元夫が再婚し、再婚相手の連れ子と性格が合わない、その子供の友達がきたら仲間はずれにされて居心地が悪い、コロナ時のときでは感染予防に関する意識のレベルが違うので相手の家に行かせるのが心配、お互い子供と過ごしたい休暇のスケジュールが合わない、家庭内ルールが二つの家庭で異なり子供が混乱する、など、それはそれは、各家庭それぞれお悩み、課題は山のようにあります。
「パパのところには行きたくない」「ママよりパパの家がいい」。子どもの意向をどこまで尊重するかも親にとっては悩ましいところです。
子供が大きくなり、生活環境に変化が応じた場合、お互いの合意によって親権の決定を後から変更することも可能です。
わたしの夫の両親は離婚していますが、それぞれのパートナーを連れて私たちの結婚式のときには日本にやって来たのには、わたしの日本人の両親はちょっとびっくりしていました。しかし、これもアメリカでは非常に一般的です。
子供にとっての二重拠点生活。課題が多く、複雑な生活スタイルになったとしても、父親(や母親)に1年にたった1度会うのではなく、両方の存在と愛情を身近に感じながら子供たちは大きくなっていきます。
シリコンバレーでお互い顔も見たくないほどドロドロにこじれた離婚の後(もしくは離婚調停中)でも、浮気をされて怒り心頭に発していたとしても、いったん合意したあとは、「大人」になって子供のためにスケジュールを調整し、連絡をとりあっているファミリーを見ていると、日本の今回の共同親権の導入の議論自体が先送りになったのには、正直、違和感があります。
離婚しても、別々に暮らすようになっても、他に家族ができたとしても、家族であることには違いないですから。
グリーンバーグ美穂
Miho Greenberg。神戸出身。ユダヤ系アメリカ人の夫、12才の女の子の3人暮らし。1905年に設立された北カリフォルニア・ジャパンソサエティーの COO。日米間の相互理解を深め、特に子供の「ジャパン・ファン」人口を増やす、という目標に向けて邁進中。現職の前は、 サンフランシスコにあるマーケティング企業で、世代別のライフスタイル調査などを担当。ボストンでは、MITメディアラボ勤務。趣味は、仕事と子育て。他はアウトドア、ピラティス、料理などなど。
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