両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成23年5月27日、東京新聞

日本も加盟へ ハーグ条約とは

 国際結婚の破綻などで、子どもが不法に国外へ連れ去られるのを防ぐための「ハーグ条約」。政府は加盟の方針を表明し、関連法案の作成を始めた。条約の内容などをQ&A方式でまとめた。 (竹上順子)

 Q なぜハーグ条約というの?

 A 正式名称は「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」。オランダのハーグに事務局がある「ハーグ国際私法会議」で締結されたため、そう呼ばれる。一九八〇年に成立し、八三年に発効。子どもが一方の親などに、無断で国外に連れ去られたり、留め置かれたりすることを防ぐのが目的だ。

 Q どんな仕組みなの?

 A 典型例を示した図を見てほしい。これはAB両国が同条約加盟国で、子どもが十六歳未満の場合だ。

 国際結婚してA国に住んでいた夫婦の関係が破綻したとする(離婚も含む)。夫も妻も、子の生活の世話や教育、居住地の決定などに関する「監護権」を持っているが、妻が子を連れて、夫に無断で出国(図<1>)。子を取り戻したい夫は、政府が指定した「中央当局」に、返還援助の申し立てをした(同<2>)。申し立ては直接B国の中央当局にもできる。

 A国の中央当局が、B国の中央当局に連絡(同<3>)すると、B国の中央当局が子を速やかに捜し出し(同<4>)、妻に子をA国に返還するよう命じ(同<5>)、子が返還される(同<6>)。ハーグ条約は「迅速な返還」が目的で、ここまでが加盟国に義務付けられた内容だが、この後はA国で、子どもの監護権をめぐって裁判が行われることが多い(同<7>)。

 Q 返還されないケースもある?

 A 連れ去りから一年以上が経過し、子どもが新しい環境になじんだと証明される場合や、返還で子が肉体的・精神的な危険にさらされる場合、子ども自身が返還を拒んだ場合などだ。

 Q 申し立てはどのくらいあるの?

 A ハーグ国際私法会議事務局の調査では、二〇〇三年の締約国全体の返還申立件数は、約千二百六十件。結果が明らかなもののうち、任意や裁判所の命令などで返還されたのは約半数。裁判所の決定による返還拒否は約13%あった=グラフ。

 Q 何カ国が加盟しているの?

 A 現在八十四カ国。欧米が中心でアジアは少ないが、主要国ではロシアと日本が未加盟で、米国などから批准を求められていた。背景には、国際結婚と離婚の増加によるトラブル多発がある。日本人の親が子どもを連れ去られたケースもあり、近年は国内でも加盟を求める声が強まっていた。

 Q なぜ日本はすぐに加盟しなかったの?

 A 日本の場合、離婚後は単独親権になるが、欧米では共同親権が一般的。こうした親権制度の違いや、海外でドメスティックバイオレンス(DV)被害に遭った日本人に配慮したためといわれる。加盟に反対する人たちは、DVなどへの配慮が不十分だと指摘している。

 Q 政府の関連法案では考慮されているの?

 A 連れ去った側の親がDV被害者だった場合や、相手から「誘拐犯」などの嫌疑で訴えを起こされ、帰国したら逮捕・刑事訴追される恐れがあるときなどは、返還を拒否できるとしている。

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