両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成24年2月9日、熊本日日新聞(社説)

ハーグ条約加盟 国内の関連法整備も必要だ

 国際結婚が破綻した夫婦間の子どもの扱いを定めた「ハーグ条約」加盟に向け、法相の諮問機関である法制審議会が関連法の整備要綱を決定、小川敏夫法相に答申した。政府は今国会に条約承認案と関連法案を提出。会期中の成立を目指す。早ければ年内にも条約が発効する。

 国際結婚の増加に伴い、トラブルが続出していた問題に初めて国際的なルールを導入するもので、基本的には歓迎したい。一方、国内でも離婚後の子どもをめぐる紛争は増加しており、条約加盟を機に親権や面会交流権などについて、さらなる関連法整備も必要となろう。

 ハーグ条約は、離婚した夫婦の一方が無断で子どもを自国に連れ帰った場合、原則として子どもを元の国に返し、その国の法の下で養育権などを確定する手続きを定めている。現在は87カ国が加盟。主要国(G8)で加盟していないのは日本だけとなり、近年は欧米各国から加盟を強く求められていた。

 今回、答申された要綱では、子どもを日本に連れ帰った親に対し、外国にいるもう一方の親が家庭裁判所に返還を申し立てた場合、家裁は子どもの意見を配慮した上で元の国に戻すか審理。返還が決まって一定期日までに返さなかった場合は、金銭支払いを求めたり、強制的な引き渡し執行も行うとしている。また、逆に日本から国外に子どもが連れ去られる恐れがあるケースでは出国禁止命令なども規定している。

 日本の加盟が遅れた背景には、欧米では離婚後も両方の親が親権を持つ共同親権が主流になっているのに対し、日本では一方の親に親権を与える単独親権を取っていることがある。また、日本に連れ帰った親の多くが、家庭内暴力(DV)被害を訴えていたことも理由となっていた。

 DVを受ける恐れがある場合、要綱では返還を拒否できるとしている。しかし、そのためには過去のDV被害の証明などが必要になるとみられ、被害から逃れるため急きょ帰国したような人にはハードルが高い。運用面で、そのような人の負担を軽減する方策が必要だろう。

 一方、親権問題について政府は当面、民法改正などは行わない方針。ただ、今年4月から施行される改正民法では、離婚時に親子の面会交流などを取り決めるよう規定。また、改正法案可決にあたって国会では、離婚後の親権の在り方について共同親権の可能性を含めて今後検討していくことが付帯決議されている。

 もともと国内においても、一方の親による子の連れ去りや面会交流の一方的拒絶などの問題が頻発。子どもの引き渡しを求める家裁への審判申し立ても年々増加している。このため、当事者を中心に共同親権を求める声は強まっていた。

 しかし、親権には財産管理権などさまざまな概念が含まれており、DV問題も絡んで共同親権導入に対しては慎重な意見もある。現在、特に問題となっているのは、ハーグ条約も求めている面会交流権の確保だ。差し当たっては、この権利の実効性を高める取り組みを進めたい。それとともに、何が子どもの利益向上に有効なのか、親権全般についての国民的議論が必要だろう。

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