両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成24年4月4日、西日本新聞

【ほほ笑み返して…子どもから見た離婚】<1>離れても親なのに

 ■新訳男女 シリーズ第16部■  
 今も鮮明に覚えている。10年前のあの日。母が荷物を手にして玄関を出ていく瞬間を。「行かんでっ」。当時小学2年だった翔太さん(18)=仮名=は泣き叫んだ。だが、母は振り向かなかった。二度と福岡の自宅には戻らなかった。

 父は離婚の理由を「金遣いが荒かったから」など、母の非として説明した。そういえば、お年玉をためていた自分の通帳がなくなっていた。父の言い分は本当なのか。さらに父は家族写真を全て焼却した。母の思い出は灰となった。残ったのは「お母さんは悪い人」という疑念だけだった。

 周りと違うひとり親。家族の大切さを考える道徳の授業があると、自分の家庭が嫌でたまらなかった。毎年の運動会では、両親そろって応援に来るクラスメートがうらやましかった。

 「どうせ自分なんか」。いつからか、そう思うのが「心の癖」になった。友達の話が全部うそに聞こえる。誰も信じられない。人と対立したくない。中学、高校…。気が付くと、いつも「冷めた自分」がいた。

 「片親疎外」-。ひとり親家庭の調査に取り組む大正大学人間学部教授の青木聡さん(臨床心理学)は、翔太さんの置かれた状況をそう説明する。例えば、同居する親が、別居した片方の親を中傷するなどマイナスのイメージを吹き込み、正当な理由なく会えなくさせる-といった状況だ。

 青木さんによると、最近は少子化で一人っ子が増えたこともあり、親権争いが激化。連れ去りも後を絶たず、こうした環境下では「自己肯定感の低下や社交性が乏しいといった親和不全、抑うつなどの症状が表れるケースも見られる」という。

 翔太さんは2年前、母方の親族の計らいで8年ぶりに母と再会できた。そのとき聞いた離婚の理由は、父の説明と食い違っていた。母は「お父さんの暴力も原因」と話していた。

 どちらが本当なのか…。母の悪人像は薄れたものの、心に空いた8年分の穴を埋めることができないでいる。「俺には本当のお母さんっていないんです」。今も母と会っているが、父には内緒にしている。

 「お父さんに電話をさせてっ」。福岡県内の会社に勤める貴さん(29)=仮名=が母親に泣きじゃくりながら訴えたのは、5歳のときだった。海に行ったり、公園で遊んでくれたり。1年ほど前に家を出た父親は優しくて、大好きだった。以後、月1回の面会交渉が設定された。

 母は別れてすぐに再婚していた。新しい父親は気が荒く、なじめなかった。だからなのか、何かにつけて殴られ、蹴られた。でも、誰にも言わなかった。友人にも先生にも、そして実の父親にも。「心配をかけたくなかったから。絶対に」

 暴力は小学校高学年になると収まったが、妹が生まれた家庭に居場所はなかった。高校を卒業してすぐ家を出て、実の父親と暮らし始めた。就職し、24歳で結婚。今3歳になる娘がいるが「自分が受けたように、いつか暴力を振るうんじゃないか」と悩み、円形脱毛症にもなった。

 どちらの親と一緒に暮らせば幸せなのか。「子どもの立場、子どもの福祉を最優先にして考えられなければならない」と青木さんは指摘する。貴さんは今、振り返って思う。「離婚が避けられなかったのは仕方ない。でも、もっと自分の声を聞いてほしかった」

   ×    ×

 年間25万組が離婚している。そこでは、子どもの心を置き去りにした親権争いが繰り広げられることも少なくない。両親の別れに傷ついた子どもに、ほほ笑みを返してあげるには…。子どもの立場から見た「別れ方」を考えてみたい。

powered by Quick Homepage Maker 5.2
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional