平成24年4月7日、西日本新聞
【ほほ笑み返して…子どもから見た離婚】<4完>心埋める居場所を
■新訳男女 シリーズ第16部■
「自分がもっといい子だったら、親は離婚しなかったんじゃないかと…」
「大人同士の問題。あなたはまったく悪くないよ」
「こんな後ろ向きな気持ち、誰にも言えなかった」
ミクシィで心の居場所となっているコミュニティー「親の離婚を経験した子ども」 インターネットの会員制交流サイト「ミクシィ」でのやりとりだ。「親の離婚を経験した子ども」というコミュニティーで2006年に開設された。20―30代を中心に中高生も含めて約3700人が登録している。
主宰するのは横浜市の中田和夫さん(41)。自身も親の離婚を経験している。母は亡くなったと聞かされて育ち、高校生のときに生きていることを知ってからも「だまされた」という思いを吐き出せなかった。
ひとり親家庭への偏見、両親そろってこそ「普通の家庭」という世間の価値観、同じ立場の友人が近くにいない…。中田さんは「友達や家族など誰にも言えない弱音を吐ける一つの居場所なんです」と話す。
「ひとり親でかわいそうと思われるのが嫌だ」
「過去から抜け出したいのに、抜け出せなくて苦しい。死にたい」
「つらい過去に区切りを付けたい。どうしたら…」
中田さんの場合、社会人になってから心の憤りが噴出した。うつ状態になり、会社を辞めた。転機は20代後半。不登校や引きこもりの悩みを抱える仲間の集いに参加し「みんな同じなんだな」と感じられるようになってからだった。
「愚痴を書き込んでもネガティブになってもいい。そうすることで、その後にちょっとでも自分の人生を主体的に生きていけるようになってもらえたら」。中田さんも両親へのわだかまりに区切りをつけ、今は婚約者に支えられながら再就職を目指している。
「ここに書けてすっきりしました。ありがとう」
「この場所を見つけて本当によかった」
そんな居場所がもっと増えていけばいい-中田さんはそう願う。
=おわり
× ×
■子どもへの配慮は 専門家に聞く
子どもの心に配慮した別れを可能にするには? 大正大学人間学部教授の青木聡さん(臨床心理学)と、早稲田大学法学学術院教授の棚村政行さん(民法)に聞いた。
●親への教育検討しては
大正大 青木聡教授 ケース・バイ・ケースだが、重要なのは離婚した後も親と継続的に会えるという安心感を子どもに与えること。欧米では、別れた後も親子関係は途切れないのが当たり前になっている。
例えば米国では、離婚の際、子どもに理由を説明する練習を行う教育プログラムを親が受け、面会交流のスケジュールを決めることが義務化されている。
家族観が異なり、そのまま日本に導入できるかは難しい面もある。ただ、理由を聞きたいのに聞けなかったり、別れた親と会いたいのに会えなかったりして、自己肯定感の低下や抑うつの症状が表れる「終わりのない悲嘆」に陥る子は少なくない。そうした現状を考えれば「子どものため」に親の教育プログラムの導入を検討すべきではないか。
●親権や養育費法整備を
早大大学院 棚村政行教授 課題は、子どもの幸せを考えた法整備をすること。4月から離婚届の書式が改定され面会交流と養育費の取り決めを確認する欄が設けられたが、専門家が中身をチェックするまでには至っていない。
韓国は2007年に民法を改正し、車の両輪である親権と養育費の取り決めをしないと離婚できないようにした。日本では父親の育児参画が進むなど環境が変化しているのに、法改正の機運はない。議論が必要だ。
日本は単独親権だが、共同親権を求める声もある。現実的には選択制にし、別居親にも自覚を持たせてつながりを断たないようにすることが、子どもにとってもいいと思う。「両輪」の取り決めをサポートする民間団体を、国が支援する仕組みも必要ではないか。