平成26年3月31日、毎日新聞
社説:ハーグ条約発効 子のため穏便な解決も
国際結婚が破綻し、一方の親が無断で子供を連れて出国した場合、原則としていったん元の国に子供を戻す国際的なルールを定めたのがハーグ条約だ。日本が加盟を決めたこの条約が4月1日に発効し、昨年国会で成立した関連法が施行される。
日本人と外国人の国際結婚は年間4万件前後。結婚関係が破綻し、子供の監護権をめぐり争いになることも少なくない。「子供の連れ去り」に発展した場合、元の国から誘拐で指名手配されることさえある。
欧米の主だった国が条約に加盟し、既に91カ国に上る。日本の早期加盟を求める声は強かった。子供の利益を最優先に、国際社会の枠組みで紛争解決を図る第一歩としたい。
条約と関連法で決まった手続きはこうだ。無断で外国から子供を日本に連れ帰った場合、配偶者の申し立てがあれば、外務省が子供の所在調査をし、東京、大阪家裁のいずれかで返還の是非を決める。逆に、日本から無断で外国に子供を連れ去られた場合、外務省が相手国と交渉し、相手国で返還の是非を判断する。
子供は元の国に戻すのが原則だが、例えば連れ帰った理由に配偶者の暴力などがあれば、返還拒否ができる規定がある。ドメスティックバイオレンス(DV)については、各国で既に司法判断の実績が積み重ねられている。そうした事案も参考にしながら、子供にとってよりよい解決の道を探るべきだ。
子供の帰属をめぐる争いは、「返す」か「返さない」かの二者択一だ。「返す」となれば、母親と幼い子供を引き離すといった作業も伴う。親が子供を抱えて抵抗した場合、子供の精神的ダメージを考慮して、裁判所の執行官は無理強いしないといった対応も細かく規定されている。
できれば、穏便な解決が望ましい。実は、条約には裁判外の調停での話し合い解決が望ましいと書かれている。例えば、子供を連れ去った母親が、配偶者と子供の面会を認めれば、配偶者が返還請求を放棄するといった解決が現実には少なくない。
国内でも、東京や大阪の弁護士会が、紛争解決センターなど既にある裁判外の調停組織を活用して問題解決を図る準備を進めている。条約の運用実績の長い英国やドイツなど欧州では、児童心理士や精神科医といった専門家が、こうした話し合い解決の場に加わっている。
だが、日本では法律家以外の専門家が加わる体制はまだ不十分だ。例えば子供の返還命令が出た場合、当事者を落ち着かせたり、外国から子供を連れ戻した後に、日本での生活に早く慣れさせたりといった場合も、こうした専門家は不可欠だ。しっかり体制を整えたい。