平成26年4月22日、朝日新聞
(社説)ハーグ条約 子どもの利益を第一に
国際結婚が破綻(はたん)した。父と母はそれぞれ別の国に住むことになった。その場合、子どもはどちらと暮らすべきか。
子はまず、元々住んでいた国の親の方に戻す。そして、その国で親権や、その後の面会について決めることを原則とする。それがハーグ条約である。
90カ国以上が加盟しており、日本でも今月、発効した。
海外で結婚生活を送っていた日本人の親が子と帰国する。外国人の親が日本から子を連れ出す。いずれのケースもある。
どちらであれ、これまで連れ去られた親の側にとれる有効な手立ては少なかった。また、連れ去った親が外国当局から誘拐犯扱いされることもあった。
元々家族が暮らしていた国での解決を後押しするのは理にかなう。ただ、親の事情は千差万別であり、なかなか原則通りにいかないこともあろう。
最優先すべきは、子にとって最善の解決策をとることだ。それを基本としておきたい。
条約の対象は16歳未満の子。連れ去られた先の国に、その子を捜して元の国に戻す支援をする責任がある。
日本国内に子がいる場合、その親が応じなければ、東京または大阪の家裁が連れ戻しの是非を判断し、強制的に親から引き離すこともある。
まずは父母の話し合いによる合意をめざすべきなのは、いうまでもない。弁護士会などは国と提携した民間の調停機関づくりを進めている。言語や文化、法の違いに配慮し、海外から援助を求める人にも納得してもらう対応をしてほしい。
父母の対立が深刻だと家裁の関与は避けられない。条約では子に重大な危険があれば、連れ戻しを拒むことも認めている。
とりわけ連れ去った方の親が配偶者の暴力に耐えかねて帰国したケースでは、子を戻すリスクをどのように考えるかは難しい。条約の理念は尊重しつつ、できるだけ実態を把握、勘案したうえで判断すべきだ。
条約は、連れ戻しを拒む子の意思も尊重している。家裁は子が本心を話しやすい雰囲気づくりをすることも必要だろう。
国際結婚は今後も増えそうだ。日本では離婚後は一方の親が親権をとるが、他の先進国では共同で子育てにかかわるのが一般的だ。婚姻関係にかかわらず、子は成長過程で父と母の双方とのふれあいを必要とするという考え方が根底にある。
こうした海外の事情を考えるとともに、日本でも、離婚した両親と子育ての役割をめぐる論議を高めてはどうだろうか。