平成28年2月3日、朝日新聞
「離婚後も子に会わせて」 増える面会調停、7割が父
離婚する夫婦が、子どもと会う回数を決めるために裁判所に調停を申し立てるケースが増えている。2014年は約1万1千件で、10年間で2・5倍に増えた。特に父親からの申し立ての増加が目立つという。背景には、離婚後も子育てに関わりたいという意識が父親に高まっていることがあると専門家はみている。
「定期的に子どもに会える機会をつくれないと、片方の親の『連れ去り勝ち』になってしまう」。調停で、子どもとの面会を求めている東京都内の40代の男性は話す。
14年10月、妻が2人の子どもを連れて家を出た。実家に戻った妻は、子どもに会わせることを拒否。男性は長男(8)の転校先を地元の教育委員会にも教えてもらえず、長女(6)の入学式にも出席できなかった。昨年5月に裁判所内の面会室で30分間だけ会えたが、その後の話し合いは進まないままだ。
家庭内暴力(DV)があった、と主張する妻とは「感情論で対立するばかり」と男性。希望は、月に1回は子どもと会えるようになることだ。「会いたい気持ちは母親も父親も同じ。子どもは日々成長するのに、時間だけが過ぎて子どもとのつながりが薄れてしまう」と訴える。
最高裁によると、調停で離婚した夫婦の子どもの約9割は、母親が親権者になる。この男性のように、父親が子どもと別居するケースが圧倒的に多い。
子どもと離れて暮らす親が定期的に子どもに会う「面会交流」の回数は、離婚の際に夫婦間で決められない場合、家庭裁判所に調停を求めることができる。最高裁によると、面会交流の取り決めだけを求めた調停の申し立ては04年に約4600件だったが、11年は約8700件になった。このほか、離婚調停の中で決めることもある。
厚生労働省の統計によると、14年の離婚件数は約22万2千件で、10年前より約5万件減ったが、調停の申し立ては逆に増えている。
12年には民法が改正され、離婚の際には「子の利益を最も優先して面会交流を夫婦で取り決めること」が義務づけられた。離婚届にも、取り決めをしたかチェックする欄が設けられた。この改正も影響し、13年には面会交流に関する調停の申し立てが初めて1万件を超え、14年は1万1312件にのぼった。
特に、父親からの申し立ての増加が目立つ。14年の1年間に調停が成立するなどして手続きが終わった1万563件のうち、約7割が父親からの申し立て。10年前の04年と比べると2・9倍で、母親の1・7倍よりも伸びが際立つ。家裁の経験が長い裁判官は「父親の育児への意識の高まりから、妻と別れても子どもとのつながりを求める父親が増えたのだろう」と話す。
面会交流に関する調停申し立ては約6割が成立するが、取り決めに強制力はない。改正後の民法でも守られない場合の罰則はなく、取り決めがなくても離婚届は受理される。守らない親に金銭の支払いが命じられた例もあるが、「子どもと会う」という本来の目的は達せられない。
離婚をめぐる協議では夫婦間の対立が激しくなる一方で、「子どもの利益」が置き去りになりがちだ。争う夫婦に、まず「親としての責任」に目を向けてもらう取り組みも進む。
「養育費は子どもの権利です」「相手の責任を問うより、子どもに対する自分の責任を意識して」。京都家裁では昨年4月以降、調停を申し立てた夫婦に最初に約35分のDVDを見てもらう。別居や離婚が子どもに与える影響などを説明するもので、京都大の臨床心理学者の助言を受けて制作した。DVDを見た夫婦からは、「争っていること自体が子どもを傷つけていることに気づいた」といった感想が寄せられている。
同家裁の藤田智・主任調査官は「両親の争いの中で苦しんでいる子どもたちを目の当たりにしてきた。調停は子どものためでもある、と気づいてもらえれば」と話す。
立命館大法学部の二宮周平教授(家族法)によると、欧米や韓国では、離婚する両親が子どもの心理や親子関係について学んだり、相談したりする専門機関がある。日本では兵庫県明石市が相談窓口を設けているが、まだ少ないという。「夫婦である以前に親として、子どもの立場に立って考えられるように、支える態勢が必要だ」と指摘する。(河原田慎一)
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