平成28年6月22日、西日本新聞
【つくられた貧困】ひとり親家庭の貧困率が54・6%に上る背景とは
泉房穂・兵庫県明石市長に聞く
ひとり親家庭の貧困率が54・6%(2012年)に上る背景には、離婚で子を引き取らなかった方の親の8割が養育費を払っていないことが大きい。
そう考え、明石市は2014年度から、養育費の額や支払期間などを記入する「合意書」を独自に作成し、離婚届を取りに来た市民に手渡すようにしている。記入は任意で法的拘束力はないが、コピーして2人が持っておけば養育費支払いの意識付けになるし、調停や公正証書作成の際の資料としても使える。
弁護士業務をしていた1997年からの6年間、離婚調停などで多くの父親や母親の代理人を務めた。母親の依頼で小学校に子どもを迎えに行くと、「お父さんと離れたくない」と泣かれたこともある。こういった子どもの意見はだれが代弁するのか。代弁どころか、子どもの養育費や面会交流のことも決めないで別れる親が6割に上る。
他の先進国の多くは裁判所が子どもの意見を聞くし、養育費を支払わなければ、給与口座から強制的に天引きする国もある。「相手ともう関わりたくないから養育費はいらない」と思っても、子どものために請求しなければならない類いのものだ。
だが、日本の民法は離婚時の養育費支払いを義務付けていない。子どもの福祉を無視しており、おかしいと強く思った。
「明石モデル」を全国に
国会議員になり、民法改正で義務化を目指す超党派の議連もでき、国会質問をしたり、法務省や厚生労働省に要望したりしたが、実現しなかった。市長になって、離婚届を受ける自治体としてできることをしようと合意書を発案した。
同時に、子どもの気持ちが置き去りにされないよう配慮を促すための冊子「親の離婚とこどもの気持ち」を親に配り、子ども養育相談会を月1回行っている。
合意書の成果はなかなか目に見えないが、離婚後に児童扶養手当の申請窓口にきた親が「養育費はこのように決めました」と合意書を見せてくれたと職員から聞いた。こうした市の取り組みが15年版の厚生労働白書で紹介され、東京都足立区や文京区、奈良市、鹿児島市などで同様の合意書を配ったり、窓口に置いたりし始めたとも聞く。
今は「明石モデル」を全国に広げるよう働き掛けている。しかし、最終目標は義務化だ。子どもの貧困問題をきっかけに、養育費が支払われない状態を放置していてはいけないという機運は高まっている。あとは政治決断だ。
▼離婚と養育費
2011年度の厚生労働省調査によると、全国で母子家庭は123万8000世帯、父子家庭は22万3000世帯。原因の8割が離婚で、死別、非婚と続く。
離婚のうち、養育費の取り決めをした母子家庭は38%、父子家庭は18%。実際に支払いを受けているのはそれぞれ20%、4%にすぎない。養育費の平均月額は母子家庭が約4万3000円。父子家庭が約3万2000円。
養育費の取り決めが少ないことや、不払いが多い背景には、2人の合意だけで済む協議離婚が9割を占めることがある。
11年の民法改正で、協議離婚の際には父母が養育費などを取り決めるよう規定され、離婚届に養育費に関するチェック欄が設けられた。だが、努力義務でしかなく、実効性が疑問視されている。
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