両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成29年10月17日、産経新聞

親権1、2審逆転訴訟が刑事事件に 敗訴の父親が元妻支援の弁護士ら告訴 異例の展開

長女(9)の親権をめぐる元夫婦間の訴訟で、「家庭内暴力(DV)をしていた」などと虚偽の事実を流布されたとして、長女の父親が、母親側を支援した弁護士や女性団体役員らを名誉毀損(きそん)罪で刑事告訴し9月末、警視庁に受理された。親権訴訟が刑事事件に発展するのは異例だ。同じ状況にいる多くの当事者らが、捜査の行方を注目している。

■「DV受けた」
 刑事告訴したのは、キャリア官僚の40代の男性。
 裁判記録などによると、男性は平成18年、国際機関での勤務経験もある元妻と結婚し、翌19年に長女が生まれた。しかし不仲になり、元妻は22年5月、男性が仕事で不在のときに長女を連れて自宅を出て別居状態となった。男性は同年9月以降、長女と会っていないという。
 その後、「不当な連れ去りであり、長女を返すべきだ」と主張する男性側と、「男性から(自分は)DVを受けており、子供を連れて逃げたのはやむを得なかった」とする元妻側の間で親権訴訟に発展した。
 1審千葉家裁松戸支部で元妻側は「男性と長女の面会交流は月1回程度」と主張。一方、男性側は「親権を得たら長女を年間100日程度、元妻と面会交流させる」と提案した。
 28年3月の1審判決は、男性側の提案を「長女は両親の愛情を多く受けられ、健全に成長できる」と評価し、男性を勝訴とした。また男性によるDVは「なかった」と認定した。

■“画期的判決”と注目
 親権訴訟では、(1)成育環境が一変するのは子供に不利益との考えから、同居中の親を優先する「継続性の原則」(2)父親より母親が養育するのが望ましいとする「母親優先の原則」-などが重視される。
 この1審判決は、従来の基準ではなく、より相手に有利な条件を提示した親を優先する欧米的な「寛容な親の原則(フレンドリーペアレントルール)」を日本で初適用した事例として注目を集めた。
 しかし、控訴審の東京高裁は29年1月、「面会交流の回数を過剰に評価すべきではない」として、「継続性の原則」「母親優先の原則」を重視し、男性を逆転敗訴とした。ただ、DVについては1審同様「なかった」と判断した。男性は上告したが同年7月、最高裁は上告を棄却した。

■「名誉毀損だ」
 そして男性は刑事告訴。警視庁が受理した告訴状の概要は次の通りだ。
 (1)元妻を支援した団体の役員らが1審判決後、「元妻は男性から暴言、暴力、精神的・経済的な虐待を受けていた」などと記した署名を呼びかける書面を、不特定多数の人に配布した。
 (2)高裁判決後に元妻側が開いた記者会見で、代理人弁護士が「夫妻仲が悪くなった理由は、男性によるDVがあったため」などと記した資料を配布した。
 (3)控訴審判決について、厚生労働省が主管する男親による子育て支援活動「イクメンプロジェクト」の男性委員が、会員制交流サイト(SNS)上で「6年近く父親と別居している女の子をモラハラ夫(父)に引き渡すわけがないだろう」などと発言した。
男性は告訴状で「虚偽の内容を記した資料配布や発言により、社会的地位が傷付けられた。名誉毀損に当たる」と主張している。

■告訴の背景は…
 親権争いをめぐっては、父親側団体などが「子供の連れ去りは一種の“誘拐”なのに、『継続性の原則』により親権訴訟で有利になるのはおかしい。裁判官もDVを簡単に認定する傾向がある。これでは不当な連れ去りはなくならない」などと問題提起してきた。

一方で、母親側の団体などは「父親側は自身のDVについて無自覚だ。DVを行う父親のところに子供を残すわけにはいかず、子供を連れて行くのはやむを得ない」などと主張。両者の主張は平行線をたどる状況が続いている。
 男性は刑事告訴した意図について「親権争いをビジネスにしている勢力が一部におり、その意味では元妻も被害者だ。DV冤罪(えんざい)の問題を社会に問いたい」説明。
 その上で、「DV自体は決して許されるものではない。しかし世の中には、そのような意識を逆手に取ろうとする勢力がいることも事実だ。これまで、DVというぬれぎぬを着せられて苦しんでいた方々にも、告訴受理が一つの救いになればよいと考えている」としている。
            ◇
ドメスティックバイオレンス(DV) 暴力など「身体的虐待」▽脅迫など「精神的虐待」▽金銭を渡さない「経済的虐待」-などが該当するとされる。被害者はPTSD(心的外傷後ストレス障害)などを発症する場合がある。一方、親権争いでは、一方の親が裁判で有利になるためにDVを主張し、証拠が乏しくても認定される場合があるとされ、一部の専門家らが是正を訴えている。

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