平成30年7月6日、日本経済新聞
ハーグ条約の執行を円滑に
国境を越えた子どもの連れ去りを解決するための国際ルール「ハーグ条約」について、国内の実施法を見直す議論が始まった。
法制審議会の部会がこのほど、改正の試案をまとめた。子どもの負担にならないよう十分に配慮しながら、円滑に執行できるような改正をしてほしい。
国際結婚の破綻などで、片方の親が無断で子どもを自分の母国などに連れていくケースは少なくない。原則として子どもをもとの居住国に戻すのが、ハーグ条約のルールだ。日本では2014年に条約が発効した。
住み慣れた居住国にいるのが子の利益になる、という考え方が基本にある。もとの居住国で虐待の危険などがある場合には、返還はされない。最終的には、裁判所が返還の可否を判断する。
問題は、返還が確定したのに、実現しないケースが相次いでいることだ。例えば、裁判所の執行官が連れ去った親のもとに子どもを引き取りにいく強制執行の仕組みがある。その際、親と子が一緒にいなければ強制執行は認めない。その場で親が子どもを抱え込む場合は、引き離すことはできない。
試案では、連れ帰った親がその場にいなくても、もう一方の親が立ち会えばよい、などの見直しを盛り込んだ。国内の夫婦同士の離婚でも、親権を失った親が親権者に子どもを引き渡さないことがある。法制審ではこれについても同様の法整備を行う方向だ。
ハーグ条約をめぐっては、米国務省が日本を「不履行国」と認定するなど、国際的な批判が起きていた。執行力を高め、実効性を確保するのは妥当だろう。
一方、何より大事なのは、親の間で板挟みになっている子どもの負担をできる限り軽減することだ。強制執行にあたっては、子どもの心情に十分配慮し、丁寧な対応を徹底してほしい。
強制執行に至る前に、早期に問題が解決できるよう、条約に基づく父母の話し合いの支援なども充実させたい。
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